新しい価値を生み出すVR開発会社ジョリーグッドで働くメンバーを紹介するリレー企画「JG PERSONS」第2走者は代表取締役CEO(チーフ・エクゼクティブ・オフィサー)の上路健介さん。VR業界で旋風を巻き起こす上路さんは、”業界初”を連発した元敏腕テレビマンだった!
制作の原点はやっぱり音楽かな
JOLiC編集部(以下、編集):今日はよろしくお願いします!
上路健介(以下、上路):代表の上路です。どうぞ、よろしくお願いします。
編集:「ジョージ」って苗字だったんですね。驚きました!
上路:よく言われますね。アメリカ人には覚えてもらいやすいですよ(笑)。
編集:あはは、確かに! では、早速お話を伺います。上路さんは以前にテレビ局で番組制作に関わっていたそうですね。現在の仕事まで続く“制作”をやりたいというのは、昔からずっと抱いていたんですか?
上路:僕の場合は音楽がきっかけ。学生時代にミュージシャンを志した時期がありまして、自分の曲を制作していました。
編集:バンドを組んでいたとか?
上路:そうです、ボーカルですね。作詞作曲もギターやキーボードまで全部やっていました。超ロックです(笑)。
編集:ロック! かっこいいですね。では、上路さんの“制作”の原点は音楽だと?
上路:曲と一緒に制作したMVなどの映像もインターネットで配信していました。それでちょうどそのころ地元(岩手)のテレビ番組にバンドとして出演する活動もしていて、その縁もあってテレビ局へ入ることに。
編集:テレビ局では番組制作を担当していたんですか?
上路:番組の制作技術で入社してから3年間はいろんな番組のカメラや音声、編集など、制作のすべてをやりましたね。スポーツ中継に行ったり、クイズ番組を担当したりとか。
編集:ITとの関わりはどういう流れで?
上路:プログラミングができたので、テレビ局のWEBサイトを担当してのが最初。それから徐々に「放送×IT」のコンテンツを任されるようになりました。
編集:ウェブサイト以外にITとの関わりでいうと?
上路:東北6県を繋いだクイズ番組を担当したときに、携帯電話を使って視聴者に答えてもらう仕掛けをしたんです。ガラケーが主流だった時代に、2万人以上の人が参加してくれたんですよ。双方向の参加型クイズ番組をやったのは、テレビ業界では初めてでした。
編集:!! 今では当たり前のように使っている技術ですね。
上路:当時のテレビ業界は「インターネットとテレビは違う」という風潮が少なからずありましたね。だから、社内では私への風向きはやや厳しかった(笑)。
逆風は気にしない! むしろ燃える!
編集:そういう周囲の逆風は気にしないタイプですか?
上路:そういうのはまったく気にしない! むしろ燃える!(笑)
編集:おお、情熱的! そういった社内の風向きを変えるには、どのような策を使っていたのでしょうか。
上路:言葉ではなく、「これからこんなことをやりますよ」とまずビジュアルで見せることですね。2週間ぐらいでプログラムをマスターして、とにかくすぐつくる。
編集:形として見せることで納得させ、実績を積み上げてきたと。
上路:そうですね。その後も、誰もやっていない時代にポッドキャストを始めてみたりと、新しいコンテンツをつくることに注力していました。
編集:!! まさに“業界初”男ですね。人がやっていないことをやってやろう!という気持ちが常にあるんですね。
上路:言われてみたらそうですね(笑)。単純に面白いかどうかっていうのはすごく大事にしていますし、当時は地方局だったこともあり、ある意味、“業界初”にこだわっていたのかもしれません。
編集:そんな実績を残していく中、テレビ局を離れて大手代理店に移りますよね? そこではインターネットコンテンツをメインに?
上路:はい、ほとんどが新規事業開発ですね。1年目にはミクシィ年賀状っていう、紙の年賀状を送り合えるサービスを。その翌年は、NHKさんの番組のアプリを開発して、位置情報で自分のいる場所の所縁のシーンが見られるというサービスをつくりました。
編集:このとき、すでにアプリの開発に携わっていたんですね。ちなみに、こちらも“業界初”だったり?(笑)。
上路:そうですね、テレビ番組のアプリを初めてローンチしたのはこのアプリでしたね(笑)。
編集:出ました、“業界初”!!
そうだ、ハリウッドに行こう
編集:そういった実績は国内外問わず、反響が多かったのでは?
上路:アプリなんかは海外からも問い合わせが増えてきましたね。そんな中で会社から「上路は次に何がしたいの?」って言われたときに、「あ、ハリウッドに行こうかな」と思い立ちまして。
編集:それでアメリカハリウッドに?
上路:はい、単身で乗り混んじゃいました(笑)。
編集:行動派ですね(笑)。アメリカハリウッドでは主にどんなことを?
上路:自分でチームをつくって、アメリカの企業とメディアをつくったり、アプリを開発したり。
編集:アメリカハリウッドでの仕事を通して得たものは何ですか?
上路:一番はスピード感ですね。シリコンバレーもハリウッドもそうですが、とにかく速い。今思いついたことが、3ヶ月後に走り出すなんて遅すぎてあり得ない。日本のスピードでやっていたら世界では勝てないなと。自分の決済だけでできる環境をつくりたいと思って、2014年の5月にジョリーグッドを立ち上げました。
価値観がひっくり返った映像革命
編集:設立したときは、すでにVRを意識していたんですか?
上路:2014年に「Wearable Tech EXPO」を日本で発起したんですが、その中でヘッドマウントディスプレイのVRがあったんです。
編集:本当、何でもやられていますね(笑)。
上路:当時はGoogle GlassやApple Watchが話題の中心だったのですが、シリコンバレーに行ったときにVRだけコンテンツプレイヤーが急激に増えているのに気がついたんです。どんなコンテンツやアプリも、それをつくるプレイヤーが増えるプラットフォームがないと絶対に盛り上がらないだろうと思っている中、VRではそれがすでにできていて「これは絶対来る!」と。
編集:それがきっかけで開発に着手したと?
上路:そうですね。2013年ぐらいから水面下で開発を進めて、2015年に発表したのがGuruVRというサービスです。
編集:上路さん自身がブームの到来を体で感じたんですね?
上路:初めて実際に装着したのは、EXPOのとき。狭い部屋でPCをバッグで背負うみたいなごついシステムでしたが、テレビ映像とは違って画面との距離がまったくない状態で、まるでその世界にいるような感覚でしたね。
編集:今までの常識では考えられない世界。このワクワクを拡大できると感じたと?
上路:今までのコンテンツは視覚に頼るものしかなかったけど、「体験」をコンテンツ化できると思ったんですよね。映像で表現できる幅が広がる、つまり映像革命だと。さらにその衝撃に加えて、今までテレビ番組の制作で培ったノウハウは活かせるなとも思ったんです。もちろん、そのまますぐに移行できたわけではないのですが。
編集:そのあたりが開発のうえで苦労した点ですか?
上路:そう、2013年から2年ぐらいずっと苦労した部分。今までの感覚とは違い、どういう映像がいいんだろう、どういうUI(ユーザーインターフェイス)にしたらITに強くない人でも使ってもらえるんだろう、とか。UIのシンプルさはずっと研究していましたね。
編集:その点、GuruVRは視点(見る)だけでコンテンツを選べるUIになっています。
上路:そこに関してはある程度やれたなという達成感もあります。観光案件の取引がある自治体の村長さんのような、やや高齢の方でも簡単に体感できるわけです。これがなかったら、現在の我々のVRサービスの進展はなかったと思いますね。
Profile
上路健介 Kensuke Joji
株式会社ジョリーグッド代表取締役CEO。テレビ局で技術者として番組制作に従事した後、2000年から放送とインターネットを連携させた先端サービスを多数開発。2008年より博報堂DYメディアパートナーズにて事業開発チームのリーダーを務め、2011年から3年間単身渡米しロサンゼルスに滞在し、米国メディア企業らと事業開発。アジアでのメディア企業とのビジネス経験多数。2014年、株式会社ジョリーグッドを設立。2015年、プロフェッショナルVRラボ「GuruVR」を立ち上げ、メディア企業向けのVR導入ソリューションはトップシェア。2017年、VR空間で行動データを取得できる空間解析AIエンジンを発表。累計10.5億円の資金調達に成功。
Photo:Jiro Fukasawa