新しい価値を生み出すVR開発会社ジョリーグッドで働くメンバーを紹介するリレー企画「JG PERSONS」が今号よりスタート。記念すべき第1走者は、CCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)兼CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)の丸山安曇さん。大手代理店から2019年にジョリーグッドに参加という経歴ながら、実はジョリーグッドとの縁は設立をはるかに遡るという、ディープなJGパーソンです。
上路と違って、僕は右腕タイプかな(笑)
JOLiC編集部(以下、編集):丸山さんがジョリーグッドに入られたのは2019年からということで、つい最近ですが、それ以前から代表の上路健介さんとはお付き合いがあったそうですね。
丸山安曇(以下、丸山):大学でグラフィックデザインを勉強して、その後大学院を出てからIBC岩手放送に入り、ウェブデザインやウェブディレクションを担当していたんです。
編集:そのタイミングで、当時IBC岩手放送で働いていた上路さんや土門広弥さん(ジョリーグッドCTO[チーフ・テクニカル・オフィサー/最高技術責任者])と出会ったと。
丸山:そうです。その後は博報堂DYインターソリューションズに転職し、再び上路と一緒に事業開発に従事したりしていましたので、かれこれ13年くらいの付き合いになりますね。
編集:それは長いお付き合いですね。
丸山:でも、自分としては、今回のことは付き合いの長い人たちのところへ戻ったというより、新しい場所に来たという意識ですね。以前の上路は、本当に少人数でプロジェクトを動かしているイメージで、今のように30人を超える会社を率いている彼と仕事をするのは初めてですから。
編集:立ち位置はちょっと違っても、上路さんは昔から全然変わらないですか。
丸山:むしろ悪化してるんじゃないかな(笑)。どんどんパワーアップして、自分のやりたいことができる環境をつくっていっている感じですね。
編集:悪化(笑)! 長い付き合いだからこその褒め言葉ですね
丸山:そうそう(笑)。地方のテレビ局から博報堂という大手代理店に移って、クライアントやメディアの規模、扱う予算も変わり、結果的に活躍するフィールドも国内から海外へと広がっていった。それで自分の会社をつくっちゃって、自分の決済でやりたいことをできる環境まで行き着いたというのは、すごくリスペクトしますよね。
編集:自分と似ているなと感じる部分はありますか?
丸山:多分、根本は違うタイプじゃないかと思いますけどね。僕の場合は、うーん……結構右腕タイプかな、自分で言うのは嫌ですけど。人のことを考えるほうが得意というか。それとも得意になっちゃったのかな。
編集:得意になっちゃった?
丸山:IBC岩手放送時代も、博報堂時代も、上路というプロデューサーがいて、土門というエンジニアがいて、僕がデザイナーで、要素的にはそれだけしかいなかったんですよ。だから何でも自分たちでやるしかない。
編集:なるほど。
丸山:だから、自分でコピーを書くしかないし、自分でデザインするしかない。自分でシナリオを考えて、音楽は友達に、ご飯とかおごりながらつくってもらったりして(笑)。
編集:おいしいものご馳走するから、良い曲作ってよ、みたいな?(笑)。
丸山:逆に、全部できたからおもしろかったというのはありますけど、そうこうするうちに、人の考えていることを具現化するほうが得意になっちゃった、というのがあると思うんです。多分これはよくないことです(笑)。
3.11が自分を見つめ直すきっかけに
編集:人の考えを具現化できるというのもすばらしいことだと思いますが、それよりもっとやりたいことがあったということですか?
丸山:その部分を話すとちょっと長くなりますけど、僕は2008年から10年ぐらい博報堂にいて、後半の5年ぐらいは大手企業さんとの事業開発に携わっていました。
編集:広告の分野ではなかったんですか?
丸山:もともと、広告代理店の花形スターというか、人気デザイナーやアートディレクターのような存在に憧れていたところもありましたけど、実際には事業開発ばっかりやっていたので、だんだん自分の意識も広告より事業のほうに向いていったんですね。さらにいうと、3.11の際、すごく考えさせられることがあって。
編集:東日本大震災の時ですか?
丸山:はい。僕はあの日東京にいたんですが、翌日は会社が休みになり、翌々日に地下鉄で出社したんですよ。そしたら、車内がすごく見晴らしがいいんですよ。
編集:見晴らしがよいというと……。
丸山:中吊りが全部外されていたんです。広告自粛ということで。これはショックを受けましたね。こういう時に人の前からなくなってしまうものをつくっていたのか、と。大事な時に、差しかわっちゃうのはしんどいなぁと思って。
編集:あぁ、確かに、企業の広告ポスターとかは外されていましたね。
丸山:そうなんですよ。これはしょうがない側面もあるのですが、こんな時でも必要とされる「事業」というアウトプットに意識が向きはじめました。
編集:どんな時でも本当に必要とされる事業をつくりたい、と?
丸山:そうですね。だから、今は自分がつくっているものが、本当に使われているのか、そういうことへの意識が強くなっていきました。
編集:事業家というか、事業をやる人のマインドに変わってきたんですね。
丸山:そうですね。そんな中で、2017年に縁あって「始動」というイノベーター養成プログラムに参加することになったんです。
編集:「始動」?
丸山:起業家を育てるための経産省主催のプログラムなんですが、全国から120人ぐらいが選ばれて、半年間、事業創出のトレーニングを受けられるというものでした。さらに最終プレゼンで選考された20人は、シリコンバレーに視察に行けるんですよ。で、僕も最終プレゼンでどうにか選ばれ、2週間シリコンバレーに行くことができたんです。
編集:それは貴重な機会ですね!
丸山:本当にそうですね。でも、実際に向こうを見て帰ってきて、まず感じたのが、「日本、ヤバイな」と。
編集:ヤバイ、とは?
丸山:漠然と、今のスピードでやっていたら日本ヤバイぞ、と。「大企業ならではの仕事の進め方」ってあると思うのですが、そうしているうちに時代のほうがどんどん進んでいっちゃう。そのうち、圧倒的にスピードのある海外のスタートアップ達が日本にドワーッと押し寄せてきたら、全部一気に持っていかれるんじゃないか、って。
編集:なるほど、ある種の危機感みたいなものですね。
丸山:僕自身も、そういう世界で働いているやつらとタメ張ってやれるのかと、真剣に考えてしまいました。
編集:それが転職のきっかけに?
丸山:もちろん、博報堂って、すごくいい会社なんですよ、本当に。やめる理由なんてほぼないんですけど、チャレンジするなら今かなって思って、オリンピックも来るしとりあえず出てみよう、と考えたんです。
崖から飛び降りながら飛行機を組み立てる
編集:それで新しい領域に入ることを決めたわけですか?
丸山:いや、まず転職を考え始めた時に、既存のビジネスモデルに捕らわれずに新しいビジネスをつくれるところに行こうと決めていたんです。成立するかどうかわからないものに、自分はしっかりコミットできるのか。それを自分自身で確認しておきたいというのがあったんですよね。
編集:既存のビジネスモデルを回すのだったら、大企業にいればいいだけですからね。
丸山:そうなんです。やっぱり新しく何かにコミットするんだったら、スタートアップ企業にしようと決めて、いくつかの候補を考えたなかで、ジョリーグッドに決めました。
編集:じゃあ、成立したビジネスがまだハッキリないから、ジョリーグッドを選んだ?
丸山:そんなことを言うと怒られそうですけど、うーん、筋は定まってきたけれど、成立するかどうかまだわからない、それで勝てるかどうかもわからないという状態というか。そこを成立させるために、勝つために、本当に考え、どんどん動かなきゃいけない場所だと思っています。
編集:かなりのスピード感を必要とされそうですね。
丸山:それはすごく感じます。シリコンバレーで聞いたんですけど、「起業とは、崖から飛びおりながら飛行機を組み立てて、落ちる前に飛び立つようなもの」っていう有名な言葉があるらしいんですよ。
編集:それぐらいギリギリの時間との戦いだ、ということでしょうか。
丸山:ですね。その頃の僕は「へぇ、そんな言葉があるんだ」くらいの感じだったんですけど、いざジョリーグッドに来てみると、やっぱりリミットがある。このタイミングまでにこれを仕上げないとうちとしてはヤバイぞ、という。できたらいい、じゃなくて、とにかくやりきる、みたいなスピード感があって、それがスタートアップの醍醐味なのかなと思っていますね。ま、それが楽しいんですけどね。
Profile
丸山安曇 Azumi Maruyama
1981年宮城県生まれ。地方テレビ局からキャリアをスタート。2008年から博報堂DYグループに参加、2011年から博報堂DYメディアパートナーズに所属し、クリエイティブディレクション、UXデザイン、大手メディア・クライアントとのビジネス創出、自社事業開発等を数多くのプロジェクトを手がける。カンヌライオンズを始めとして国内外の広告賞で数多くの賞を受賞。2017年には、大手クライアントと推進した共同事業にて、キッズデザイン賞少子化対策大臣賞を受賞。カンヌライオンズ、Adasia等の国際カンファレンスにスピーカーとして登壇。経済産業省が主催するグローバル起業家育成プログラム「始動」シリコンバレー選出メンバー。2019年より個人プロジェクト「Mt.(マウントドット)」設立。同時期からVRとAIのスタートアップ「ジョリーグッド」に参加、CCO&CMOに就任。
Photo:Jiro Fukasawa