マーケティングとクリエイティブはすべてリンクしている
JOLiC編集部(以下、編集):丸山さんはCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)とCMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)、2つの役職を兼ねているんですね。
丸山安曇(以下、丸山):CCOはクリエイティブの責任者という立場ですから、ジョリーグッドの生み出すサービスや会社自体が社会から見られたときに、良いイメージを持ってもらえるよう、接点をデザインしていく仕事です。
編集:なるほど、接点ですか。
丸山:一方で、ジョリーグッドのクリエイティブは、新規事業創出も兼ねています。実際に今、新しい事業がいくつか生まれようとしています。その責任者として、大企業の中で経験したことを生かして頑張っていこうと思っています。あれ、めっちゃ当たり前のこと言ってます?(笑)
編集:いやいや、いいお話です(笑)。一方のマーケティングとは?
丸山:この会社のマーケティングは、もちろんブランド育成もあるんですけど、現時点ではユーザー獲得のプライオリティーがとても高い。だから、どうやってターゲットとのタッチポイントをデザインしていくかがすごく大事になってくるんです。
編集:あ、そこでも接点がカギになると。
丸山:そうです。誰に対して、どんなクリエイティブを当てるか、事業を成長させていく上で、マーケティングとクリエイティブは密接にリンクしているので、役職名としてはCCOとCMOの2つになっていますが、自分的には一つの役職みたいな感じですね。
編集:仕事の流れとしては全部がつながっている……。
丸山:まずは世の中の課題解決につながる事業をつくらなきゃいけないし、次に、それがちゃんと受け入れられるクリエイティブをつくらなきゃいけない。その上で、そのクリエイティブを効果的に機能させるようなマーケティング戦略を立てて、PDCA(Plan/計画、Do/実行、Check/評価、Action/改善)をしっかり回していかなきゃいけない。そこを一気通貫に見させてもらえるのはありがたいし、自分にとっても責任が見えやすいですね。
VRはインターネットの先の新しいクリエイティブ・フィールド
編集:丸山さんのようなクリエイターから見て、VRってどういうものですか?
丸山:クリエイティブのフィールドとして1番歴史が深い紙媒体はレベルも高いしデザイナーの人口も多い。その次は映像で、ここも大好きな領域です。2000年くらいにインターネットが出てきましたが、当時は優秀なクリエイターはあまりそっちに移行しなかったんですよ。
編集:確かに、画質が粗いとか、表現の幅が狭くなるとか、いろいろな意見がありました。
丸山:でも、今やウェブやデジタルクリエイティブのクオリティはすごく良くなっていて、優秀なクリエイターもたくさん出てきていますよね? 紙があって、それが動きだして映像になって、さらに世界中の1人1人にパーソナライズできるインターネットが発達して、正直この次はもうないだろうと思ってました。クリエイティブのフィールドはインターネットで終わりかなと。
編集:でもまだその先があった?
丸山:そうですね、VRが登場して、えっ、没入体験型のフィールドがあったか!と衝撃を受けました。実際に体験してみて、これは一過性のものではなく、間違いなくもう1つの新たなクリエイティブ・フィールドとして確立する、と直感しましたね。
編集:その新しさとは、やはり没入体験という点ですか。
丸山:『VRってゲームやエンタメの延長でしょ』とか、『モニターが広がっただけでしょ』とか考えている人も、少なくないと思うんですよね。でも、全くそうじゃない。以前、『マルコヴィッチの穴』という映画があって、洞窟にヒューッと入っていくと、マルコヴィッチさんの脳の中に入れて、マルコヴィッチさんと同じものを見て同じ体験ができるというストーリーだったんですが、まさにそんな感じなんですよ。
編集:それは、つくる側としても非常に楽しそうですね。
丸山:僕自身、とにかく今までのクリエイティブとは全然趣が違うと感じてます。表現できる幅が違うというか、ジャンルがそもそも違うというか、「他人の体験を自分に取り入れることができる」という本当に新しい表現です。全く新しい領域に、未開拓の部分がどっさりあるというのは、クリエイターとして単純におもしろい。今は探検している感じですね、ホントに。
編集:クリエイターが探検家になって、新しい何かを探し出す。
丸山:もしかしたらカルチャーとかライフスタイルとか、そういうものがガラッと変わるような仕組みそのものが生まれるかもしれない。たとえば、切符しかない時代の人には、Suicaで改札を抜けている風景なんて、想像もつかなかったでしょ? それぐらいのことが起こりそうな気がします。
編集:となると、クリエイターに求められる能力も変わるのでしょうか。
丸山:デバイスの普及に伴って、求められるクリエイターの能力は今よりもっと幅広くなると思います。もちろん、コピーが書ける、グラフィックが描けるというのは基本能力ですけど、それ以上に、解像度の高い想像ができるかどうか、というところですね。今はまだない仕組みや体験を具体的に想像して、それを具現化していく、これがすごく楽しい。だから、興味のあるクリエイターには「おいで、おいで!」って言ってます(笑)。
スタートアップではクリエイターの能力が活かせる場は無限にある
編集:クリエイティブとマーケティング、それぞれどういうチームをつくっていきたいとか、こんな人材が欲しいとか、考えていることはありますか?
丸山:うち、変な人ばっかりなんですよね。上路は「動物園」と言っていますけど、とにかく職種も違うし、キャラも違うし、何かもう放し飼いでいいかって(笑)。マーケティングにしても、目標は1つなんですけど、それに向かってのアプローチはなるべく自由にしておきたいな、と。
編集:それぞれの個性を生かすということですか。
丸山:別に型にはめる必要はないと思っていますね。自分もはめてほしくないし。もちろん、目標だけはきっちり共有しておいて、あまり細かい話はしなくていい。人材としては、とにかく、面白いヤツはウェルカムです。ザ・クリエイティブみたいなプロフェッショナルも欲しいし、料理でも、スポーツでも、何かのスペシャリストだったらみんなおいで、という感じです。
編集:ますます動物園化しそうですね(笑)。
丸山:新しいフィールドを一緒に探検してくれる人と、何ができるか一緒に考えたいです。この会社は副業オーケーだし、何だったら、うちの会社に所属しなくても、プロジェクト単位で組むでもいいんじゃないかな。一緒に仕事してくれる会社をどんどん探していきたいですね。
編集:これからジョリーグッドで実現したいことはありますか?
丸山:まず明確にあるのは、上場。上場についてはいろんな意見があると思うんですが、僕は単純に、この会社が社会の中で認められ、結果としてそのステージに上がれるほど成長させられるのかを試してみたい、と思っています。あれ、こんなこと言うと、金の亡者みたい?(笑)
編集:そんなことないです(笑)。
丸山:あとは、人に本当に使われるものをつくりたいという気持ちが強いです。
編集:最初におっしゃっていた、本当に必要とされる事業ということですね。
丸山:それは結局、世の中にある何かの課題を解決するということだと思うんです。ジョリーグッド に参加して間もないですが、既にVR技術を求めている企業がいることが明確に見えてきています。あとは、彼らの課題を解決しつつ、永続的に続くようにビジネスモデルを設計して、世の中に定着させるところまで行きたい。
編集:それはクリエイターの仕事なのでしょうか。
丸山:僕は、クリエイターの領域はそんなに狭くないと思っているんですよ。コピーライティングとかデザインとかの外側に、もっと広い領域がある。スタートアップ企業で、かつ、新しいフィールドの場合は、その能力が活かせる場は本当に無限にあって、望んだ分だけいろいろできる。
編集:クリエイターが自分の力を試せる機会にもなりますね。
丸山:そうですね。事業創出の周辺では膨大なクリエイティブワークが必要となりますし、しかも、何をつくるべきか、という段階から自分たちで考えていくことができるので、他ではできない大きな経験になると思いますよ。
編集:ジョリーグッドはクリエイティブの概念を変えそうですね。
丸山:とはいえ、僕はやっぱり広告が大好きですし、広告のクリエイターはすごくリスペクトしてるので、個人的には、いつかはカッコイイ広告をつくりたいと思ってます。ジョリーグッドがクライアントとなり、世界に発信するかっこいい広告のアイディアに、僕がクライアントとしてGOを出せたら、すばらしいですね。
Profile
丸山安曇 Azumi Maruyama
1981年宮城県生まれ。地方テレビ局からキャリアをスタート。2008年から博報堂DYグループに参加、2011年から博報堂DYメディアパートナーズに所属し、クリエイティブディレクション、UXデザイン、大手メディア・クライアントとのビジネス創出、自社事業開発等を数多くのプロジェクトを手がける。カンヌライオンズを始めとして国内外の広告賞で数多くの賞を受賞。2017年には、大手クライアントと推進した共同事業にて、キッズデザイン賞少子化対策大臣賞を受賞。カンヌライオンズ、Adasia等の国際カンファレンスにスピーカーとして登壇。経済産業省が主催するグローバル起業家育成プログラム「始動」シリコンバレー選出メンバー。2019年より個人プロジェクト「Mt.(マウントドット)」設立。同時期からVRとAIのスタートアップ「ジョリーグッド」に参加、CCO&CMOに就任。
Photo:Jiro Fukasawa